経済産業省|METI

越境学習による
VUCA時代の企業人材育成

経済産業省「未来の教室」事業
社会課題の現場への越境プログラム



導入事例紹介




越境学習の意義は「主体的な気づき」にある

変革を望まない企業はない――。

時代の変遷とともに変革を迫られるなかで、今年度から既存のリーダー育成研修を一新。一人ひとりに主体的な気づきをもたらす越境型の研修プログラムを導入した担当者の想いとは。

花王グループカスタマーマーケティング株式会社の人財開発部門でリーダー人財向けの研修を担当する佐賀 幸二郎氏に、なぜ越境学習を導入しようと思ったのか、社会課題の現場へ越境する意義とは何か、話を聞いた。


花王グループカスタマーマーケティング株式会社
佐賀 幸二郎 様

1998年、新卒で花王株式会社に入社し、支店営業から販売戦略までを幅広く従事。ヘアケア用品のマーケティングを担当した後、現在は花王グループカスタマーマーケティング株式会社の人財開発部門にて、主にマネージャーおよびマネージャー候補者を対象としたリーダー教育を担当している。


リーダー人材から変革を起こすため、研修プログラムを一新

――佐賀さんが担当されている越境型の人財育成研修プログラムについて教えてください。

佐賀リーダー社員(マネージャー層)とプレリーダー社員(マネージャー候補層)を対象に、年齢や性別、役職、業界などが全く異なる社外の方々と、あえて本業とは関係のない社会課題や他社・他団体の課題などに取り組んでもらっています。

    これまでも約1年間の社内リーダー研修を実施していました。成果がなかったわけではありませんが、大きなイノベーションをもたらすような発想や事業につながっていないことが課題でした。

    過去に類を見ない社会変容が起きている中で、真に会社を変革するためには、今までにない社員育成が急務です。未知なる課題に社外の人々と取り組むことで、紙上のケーススタディや現業の延長では得られない気づきを得てほしい。そんな想いから、2020年から越境型の人材育成研修プログラムを実施し始めました。

    

学ぶのではなく「気づくこと」に意義がある

――越境学習はリーダー人財にとってどんな意義がありますか。

佐賀二つあると思います。一つは、社会課題を自分ごととして捉えられる点です。花王グループはESG戦略を掲げていますので、社員はさまざまな社会課題を意識して仕事をしています。

    しかし実際は、会社の戦略・方針として頭で理解しているだけで、自分の中に明確な課題意識がないことも多いと思います。

    現業を離れて当事者と一緒に社会課題の中に放り込まれ、自分の目で見て、自分の肌で感じて、時には失敗しながらもがくことで、変容を生むと感じています。

    もう一つは、会社という「温室」を出てコミュニケーションする経験です。社内で研修をすると、初めて会った人でも社内言語は通じますし、価値観や発想も似ています。また、お互いの利害関係や役職を意識してしまうので、内省を促すための摩擦を起こそうとした研修だとしても「温室」になってしまいがちです。

    越境学習では、社内で「よし」とされていた方法が通用するとは限らず、価値観や発想の異なるメンバーには自分の言いたいこともうまく伝わりません。自分の固定観念を問い直すことになるので、「温室」を抜け出す良い機会になると思います。

    これは自分の経験からも断言できることです。実は、私自身も従来のリーダー向け研修を運営するかたわらで越境学習のプログラムに参加していました。「花王グループ」という看板がない状態で他者と協働することで、社内ではあまり露呈していなかった、あるいは許されていた弱みを辛辣に指摘され、私自身のその後の行動変容につながる大きな気づきがありました。

――佐賀さんご自身の経験もふまえて、越境学習の研修プログラムにはどのような効果があるとお感じですか。

佐賀「一人ひとりに主体的な気づきが生まれる」ことに最も価値があると思います。

    これまで採用していた研修の多くは、「こうすれば正しい」という正解を教えるような、一方的な学びを提供する場がほとんどでした。そもそも研修の場や進め方も誰かが与えてくれたもので、どうしても受動的にならざるを得なかったように思います。

    越境学習のフィールドには明確な答えは存在しません。自分たちで試行錯誤しながら、ゼロから答えを生み出さないといけない。だからこそ「主体的な気づき」が生まれてくるのだと強く感じています。

    そして、自分で発見した自分だけの気づきだからこそ、その人の意識や内面に深く食い込む変容が生まれ、本業に戻ってからも生き続ける「ブレない軸」を見出せると思うんです。

    一人ひとりに深い意識・行動変容が生まれ、ルーティンでこなしていた日々の仕事の意味が変わること。あるいは、未知の領域を自ら切り開き、会社に新しい変革を巻き起こすきっかけをつくること。それが越境学習の本質ではないかと感じています。

    

変化を望まない企業はない

――これまでの研修プログラムを一新するにあたり、社内の反応はいかがでしたか。

佐賀「多少のリスクはあるかもしれないが、これまでの研修よりも変革を起こせる可能性が高いと思うのでやってみたい」と伝えたところ、経営陣から反対の声はありませんでした。

    過去を踏襲する形で研修を実施して、あとでその効果の不足感を嘆く「受動的なリスク」よりも、新しく越境学習を取り入れて変革に挑戦する「積極的なリスク」を取るべきと考えたのだと思います。

    VUCA時代を迎え、さらにコロナ禍にあるいまの環境下で、変化や挑戦を望まない企業というのは存在しないのではないでしょうか。

――最後に、社内に変化をもたらしたい人事担当者に向けてメッセージをお願いします。

佐賀私たち人事担当者が、「研修だけでは会社は変わらない」と考えるか、「研修すら変えることができないと会社は変わらない」と考えるかが、まずはスタートラインだと思います。

    おそらく、社内の過去事例や架空の他社のケースをテーマに学び、社内の空間で、自社の社員だけで、未来の事業を考えるようなリーダー研修を実施されている企業様が多いと思います。

    そのなかで、私と同様に「今一歩、殻が破れない…」「この研修が最適なのだろうか…」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

    これまで会社を支えてきたリーダー層だからこそ、実は暗黙の価値観に縛られ、発想の幅が狭まり、自己を過信してしまっているのではないかと感じます。そして、その前提に立ったときに「越境学習」に大きな意義が見いだせると思っています。

    越境学習を通して、社会課題が自分の中の課題になり、社外の人との摩擦を楽しめるようになる。また、「自分の日常とは全く違うけれど、その人にとっては当たり前にある日常」との新鮮な出会いにもつながり、これまでにない多くの気づきが生まれるでしょう。

    主体的な気づきは、その人の「思考の枠」を拡大させ、「自分自身の軸」を内省させます。越境を体験することで、自社の本来の目的や自分のあるべき姿を本気で考えられる、真の意味での主体性が芽生えると思います。これは実際の受講者の声を聞いていても実感しているところです。

    また、越境学習を企画・運営する各社の人事担当者が「越境」の醍醐味を味わえることも、大きな魅力だと思います。

    他社の人事担当者や、越境学習事業者、現地のパートナーなど、思考タイプや価値観の異なる人とゼロベースで議論を重ねて運営するなかで、社内研修の運営では味わえない「越境学習」の経験を得られます。

    まずはスタートラインに立ち、そして自分から一歩を踏み出し、ご自身で越境の意義を感じてほしいと思います。

    

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