6月1日(月)からほとんどの学校が再開し、授業や児童・生徒同士の触れ合いを通じた学習活動が行われています。一方で、コロナ感染症の影響で、いつ学校が臨時休業になっても不思議ではない状況が続いています。そこで、「#学びを止めない未来の教室」では、臨時休業時に児童・生徒の学びを止めない工夫をされてきた教育委員会や学校の事例を今後もお届けし、児童・生徒の学習活動の支援を続けてまいります。
東松島市立鳴瀬未来中学校では、Googleサイトで休業中の学習支援と次年度の学習の意欲づけをしてきました。そこで、東松島市立鳴瀬未来中学校の木村浩之 先生にお話を伺いました。
休校中は、生徒たちに無料でやっているEdTechの情報などをまとめて、Googleサイトを使って届けていました。ただ、アンケートをとってみたら、そこまで見られていませんでした。紙のプリントも学校からたくさん渡されていたので、量のバランスは考えなくてはならないと感じましたね。
https://sites.google.com/view/narusemirailearning/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
私が担当している技術科の授業も、いつどうなってもいいようにGoogleサイトで授業を組み立てました。技術科の「情報の技術」「材料と加工の技術」などの4分野それぞれで授業の構成を作って、Googleサイトでシリーズ化を進めているところです。今は学校への登校が始まりましたけど、Googleサイトは継続してそこに教材があるようにしています。
生徒たちからは、「先生、いつ休校になっても、技術の授業は大丈夫ですね」と言われます。「期末テストのときにも学習支援のサイトから技術のサイトに飛べますよね。だから消さないでくださいね。勉強する材料にします」と言っている生徒がいましたね。
たしかに、違和感を感じている先生もいました。そういえば、この休校期間中に指導主事訪問があって、先生方相手に模擬授業をする機会をもちました。Googleサイトを見ながら「TECH未来」という教材を使って歯車の勉強をする模擬授業をしました。「課題はGoogleサイトにアップしてあるので、見ながら個別にやってみてください。最後にどこまでできたか教えてください」というふうにやってもらいました。ロイロノート・スクールで進捗を見られるようにしてあったので、「この生徒は順調だな」「この生徒は遅れているな」というのがわかるようになっていました。
模擬授業を受けた先生方からは、予想外に「この授業は、学力が高い生徒に対しても、学びを保障しているよね」と言ってもらいました。学校の授業では、上位層が暇になってしまうことも多いのです。Googleサイトを使って個別に学べるようにしつつ、課題が終わった上位層の生徒たちに「次に何をやっていったらいいか」というのが明確になっています。また、学力がそう高くない生徒たちにも、「わからなかったら最初から質問していいよ」と最初から決めてあります。
「ペア学習やグループ学習に自然となるように設計してあることで、能力的に低い生徒にも、高い生徒にも、学びを保障する形になっている、よくデザインされている授業ですね。これからはこういった形になっていかないと、ICTは活きないですよね」と言ってもらいました。
今はペアで学んでいると、一人がGoogleサイトを見て、一人がロイロノートを見て、役割分担をしながら、文章を考えて書き込んでいたり、顔を寄せ合って見て考えています。学びってこういうことだな、と思います。これは一人1台、ICTがなければできないな、と思います。
今日も、ギアシステムを言葉で説明しなさい、という課題を出したのですが、「先生、ここまで言葉が出ているんですけど…調べていいですか?」と生徒が言ってきたので、「いいよ」と答えました。自分でどんどん調べにいくようになりました。
別の生徒は、「この歯車、60枚と20枚で3:1だから3倍のスピードになるってことですよね」と、授業では教えていないのに、ギア比のことを理解していました。インターネットで検索したら、どんどん学んでいけるんです。
生徒たちは、教えていなくてもどんどんできるようになっていきます。技術の授業で「課題の進捗を知らせてね」と言っていたら、富士通の2in1のPCでフリック入力をする方法を自分で探し出したり、「ヘッドセット貸して」と言うので貸したら音声入力を始めたり。カメラの使い方を教えていないのに撮影して動画で提出してくる生徒もいました。こちらからは、「進捗を知らせてね」と言っているわけで、提出の仕方は何でも大丈夫ですよね?と、生徒たちが前に行っているんです。
生徒同士で進捗報告を見えるようにしているので、クラスメイトの進捗報告を見ると、「お、これいいね」「どうやってやるの?」とどんどん勝手に訊きに行って、ワヤワヤとみんなでやっています。
こうなると、授業中に先生にも余裕ができますから、進んでいる生徒には、「じゃあ、こうしたらどうなるだろうね?」ともうひとつ上の課題も与えられるようになります。逆に、困っている生徒の様子も見えているので、タイミングを見てヒントを与えに行きます。教室で「ああ!」という気づきの声がたくさん聞こえるようになったと思います。
中学校で来年から始まる新しい学習指導要領では、これを目指すんだぞ、ということを改めて確認できたように思います。生徒たちは技術の授業内容から一歩も離れていません。インターネットで遊んだりもしません。やらなければならないことがしっかり設定されていれば、遊ばないんです。
いい意味で、先生の出番がなくなってくるのだと思います。本当に困ったときに、「先生、どうしたらいいんですか?」と来ればいい。そのときに、「これはね…」と先生は説明する。
動機さえ高めてしまえば、勝手に学んでいくのだなと思います。どのレベルの問いを出すのか、という“問い作り”が先生の知見が必要なところだと思います。
正直なところ、休校のときにサイトでいろいろ発信していたことへの反応は聞こえてこないですね。「この2ヶ月、3ヶ月の空白が不安で、どうなっていくのだろう」と保護者が不安に思っているのは伝わってきますね。生徒たちから、「先生、この2ヶ月勉強どうするの?」と言ってきますから。子どもが言うということは、家で保護者の方が言っているからということが多いです。
休校期間に作ったGoogleサイトは今でも公開しています。情報として期限が切れているものなどもあるので、そこは整理しなければと思っています。私の授業だけは、そのまま作っているサイトに飛んでいくようになっています。ロイロノート・スクールも、Webでできるようになっているので、そこからそのまま入っていけるようになっています。生徒たちは、ロイロノート・スクールで自分たちでカードを作って送ると、先生に届く、ということもわかっています。
生徒たちに、最低限必要なスキルを身につけさせておくこと。最低限のスキルを具体的に言うと、キーボード入力、IDとPWの入力、誰かとデータを送受信する体験だと思います。生徒たちは、どんなソフトを使うかは関係ありません。「こういうのがオンラインでやるということなのね」ということがわかればいいのです。うちの学校では一人1アカウント持っていないので、できるものとできないものがありますが、それでもやってみたらわかります。体験をさせることが大事です。チャットってこういう感じなんだ、画面に映るってこういう感じなんだ、というのがわかればいいのです。
その体験さえあれば、いままた休校になっても怖くありません。いま教室内でロイロノート・スクールを使ってやっていることが、教室内からオンラインを介して家庭と学校というふうに離れるだけでしかありません。
一人1台になったら、先生たちが良い意味であわてて「もっといろいろやらせてあげよう」というふうになれば、爆発的に授業も他のいろいろも変わっていくだろうな、という思いはあります。
執筆者:為田裕行(ためだひろゆき)
フューチャーインスティテュート株式会社 代表取締役、教育ICTリサーチ(https://blog.ict-in-education.jp)主宰。学校向けの教育コンサルテーション、教育テレビ番組や教材、サービスなどの教育監修を行っている。一般社団法人ICT CONNECT 21( https://ictconnect21.jp/ )にてEdTech推進SWGサブリーダーを務める。