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【未来の教室 オンラインキャラバン】キックオフDay / No.2 ■開催日:6月5日(金)

2020年6月5日(金)、「未来の教室 オンラインキャラバンキックオフDay」( https://miraicaravan.peatix.com/ )が開催されました。新しい学びにつながる事例を共有しながら、実践者、専門家、参加者によるディスカッションでEdTechの可能性や課題を整理する場です。キックオフDayでは、熊本市、奈良県・奈良市の取り組み事例が共有され、ディスカッションが行われました。ロジカルなビジョン共有でICT活用と休校中のオンライン学習を行う熊本市(https://www.learning-innovation.go.jp/covid_19/case20200605/)と、県と市の連携により休校中のオンライン授業を短期間で稼働させた奈良県・奈良市( https://www.learning-innovation.go.jp/covid_19/case20200505/ )の取り組みは、他のパネリスト、セミナー参加者の大きな刺激となりました。本記事では、事例をもとに深められたディスカッションから、そのポイントをご紹介します。(各事例の詳細はリンク先の記事をご参照ください。)

<登壇者(敬称略)>
経済産業省 サービス政策課長・経済産業省教育産業室長 浅野大介
デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤昌宏
株式会社政策工房 代表取締役 原英史
熊本市教育委員会 教育長 遠藤洋路
熊本大学教職大学院 准教授 前田康裕
熊本市教育センター 副所長 本田裕紀
奈良県立教育研究所 主幹 小崎誠二
奈良市教育委員会事務局教育部学校教育課情報教育係 係長 谷 正友
(※文中では所属を省略し熊本/奈良の地域のみカッコ内に表記)

▼子ども達にはそれぞれに合った学びの形がある

今回突然の休校という事態でオンライン授業に踏み出した学校では様々な発見がありました。熊本市の事例では、不登校だった子どもがオンライン授業に参加できたという報告がありましたが、奈良市でも同じことが起きていました。教室での授業という形が制約になっていただけで、オンライン授業という別の形を取れば学びに参加できるということを、各現場では目の当たりにしたわけです。

もっと小さな変化もありました。本田副所長(熊本)は、教室の授業ではおとなしく手を挙げない児童が、オンライン授業ではたくさんの意見を書くなど積極的にアウトプットする姿が見られたとことを紹介しました。

逆に、教室の授業には参加していた子どもがオンライン授業には参加しないというケースもあります。前田准教授(熊本)は、教室でもオンラインでも、参加しない子が悪いというわけではなく、どちらが合うかは人によって違い、学び方はひとりひとり異なることが明らかになったと説明します。それに対して今までの学校は全部同じ形で教育を行っていたわけで、子ども達が自分に合う学び方を選び取れることの重要性を強調しました。

▼先生、保護者にも変化が生まれた

形が変わったことで新しい工夫も生まれます。オンラインは双方向のやりとりに便利なだけでなく、場所を問わず大勢に同時に同じ内容を伝えられるという特徴もあります。谷係長(奈良)は、複数クラスに対してまずオンラインで一斉に授業を行い、習熟度に応じた個別対応をする時間を別に作るという工夫を紹介しました。教員研修もオンラインで大人数、広範囲を対象に行えます。熊本市でも、教員の在宅勤務が進み、在宅のままオンライン研修を実施したということです。

先生の気持ちも変化しました。本田副所長(熊本)は、オンライン授業の研修をした当初「不安で心配」と言っていた先生が、今では、「これなしには考えられない」と言うようになった例を紹介しました。先生が協力し合い初めてのオンライン授業を乗り越えたことで、スキルも考え方も大きく進化したと言います。谷係長(奈良)も、オンライン授業のおかげで、沈んでいた職員室に活気が戻ったと話します。学校現場のICTに対する見方が変わったのは間違いなく、言わずとも学校自身がどんどん動いていっている実感があるそうです。

前田准教授(熊本)は、先生同士が学年や教科を越えて協働でオンライン授業に対応した結果、個々の先生の負担を減らしながら、子どもに対してはきめ細かな指導が可能になったと話します。画面越しながらも先生と子どもの距離が近くなり、先生が子どもひとりひとりをていねいに見取れるという効果もありました。

(熊本大学 前田准教授発表スライドより)

小崎主幹(奈良)は、保護者の変化にも言及します。奈良市の小中学校でGoogleのグループワーク環境「G Suite」を導入したところ、接続方法や使い方について、保護者間で得意な人が自主的に勉強会を開いたり教え合いをする動きが生まれたそうです。

(奈良県・奈良市発表スライドより)

熊本市と奈良市という全く異なる2つのエリアで、ほとんど同じような発見や現象があるというのはとても興味深いことです。逆に言えば、ICT活用を徹底的に行えば、どこでもこうした変化が生まれる可能性があります。政策工房 原代表取締役は「今回の取り組みをコロナだから仕方なくやったということで終わらせるのではなく、これまでよりずっといいことができたということになるのが重要」と話します。

▼withコロナ、afterコロナの学校

オンライン授業の経験を経た熊本市、奈良市の関係者は、withコロナ、afterコロナの学校の姿は、「コロナ前の元に戻る」のではなく「新しい形になる」と声をそろえます。オンライン学習にはいくつものメリットがある一方で、学校での活動でこそ学べることもあります。「活動の内容や性質に合わせて最適な方法を選ぶハイブリッド型になる」と熊本の遠藤教育長は表現し、「デジタルかアナログということが陳腐化した」と奈良県の小崎主幹は言います。

両市とも、休校中のオンライン授業は各家庭のデバイスの利用で乗り切りましたが、GIGAスクール構想に基づく1人1台の端末整備も今年度中に完了する予定です。「文房具のように日常的になくてはならないような使い方をして欲しい」と谷係長(奈良)は期待を寄せます。デジタルハリウッド大学大学院 佐藤教授は「パーソナルなタスク、スケジュールの管理ツールを使う経験や、動画編集やウェブ制作などクリエイティブなツールを使う機会もぜひ持って」と幅広い使い方を提案します。

整備するにあたっては、単に機器をそろえるだけでは意味が無く、「どういう子どもを育てるかというビジョンを持っていることが大切」と前田准教授(熊本)は話します。奈良市と熊本市の事例をふまえ、両市はどちらもそのビジョンを持っていると評価しました。

▼学びの変革をEdTechの力で加速させる

「未来の教室」事業は、民間教育を所管する経済産業省が教育を考え、文部科学省との協力を意識しながら、産業界・大学・研究機関が初等中等教育から関わるような環境を作るために立ち上がりました。「1.学びのSTEAM化(プロジェクト化)、2.学びの個別最適化、3.新しい学習基盤づくり」を掲げて学びの変革を目指しています。

(経済産業省 浅野室長発表スライドより)

経済産業省 浅野室長は、変革の実現への見通しについて意見を求められ、現在の義務教育の学びは「修得主義」ではなく「履修主義」であり、「何時間やったのかということで質を保証しようとする考え方は見直すべき」と指摘しました。ただし時間で成果を見ようとする習慣は社会全体にあり、転換は容易には進まない現実にも理解を示します。そして、制度を根本的に変えることはすぐにできなくとも、EdTechを活用して、「事実上の修得主義」を実現することに期待を寄せました。

例えば、現状は標準授業時数の多くが知識のインプットに充てられているものの、EdTechのツール群を活用すれば、インプットの部分は「質のいい筋トレ」のように効率的に個別最適な方法で行えると示します。インプットの効率化で確保できた時間は、現在欠けている探求型のプロジェクト学習にあてられるというわけです。

(経済産業省 浅野室長発表スライドより)

浅野室長は、今回の休校や分散登校という制約とGIGAスクール構想による1人1台端末の実現により、こうした学びの変革がむしろ加速する可能性に触れ、制約をプラスに捉え「遠隔vsリアル、紙vsデジタル」という対立や「一律時間管理」から脱して、新しい学びの形を作っていくことを呼びかけました。

今回の長期休校でオンライン授業を実現した現場の実感と実例が、現在の教育現場の課題やICTが切り拓く新しい学び方の可能性ときれいにつながっていることがいわかるイベントとなりました。


執筆者:狩野さやか(かのうさやか)
株式会社Studio947(https://studio947.net)のライター、デザイナー。技術書籍や記事の執筆、ウェブデザインに携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」(https://ict-toolbox.com)を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。

■「未来の教室」オンラインキャラバン in 愛媛(6/27)開催迫る!

オンラインキャラバンは全国各地を舞台にして今後次々と開催します。次回は6/27(土)13時30分開始です。
「ウィズコロナ時代の「未来の教室」実現に向けたえひめの取り組み」を是非肌で感じてください!
※詳細は下記Webサイトをご参照ください。。
https://peatix.com/event/1516252





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