2020年11月4日に、Edvation Summit 2020 Online内で、経済産業省教育産業室が進める「未来の教室」プロジェクトの中間報告会が開催されました。セッション1「個別最適化」とセッション2「学びのSTEAM化」に分けて、本年度事業における取り組みが紹介されました。
セッション2「学びのSTEAM化セッション」では、木川俊哉 さん(株式会社COMPASS 未来教育部 部長)、小沼大地 さん(NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事)、小村俊平 さん(ベネッセ教育総合研究所 主席研究員)、須藤みゆき さん(ブリタニカ・ジャパン株式会社 代表取締役社長)が、実証事業についてそれぞれ中間報告を行いました。また、木村健太 先生(広尾学園 中学校・高等学校 医進・サイエンスコース統括長)、田村学 先生(國學院大學人間開発学部初等教育学科 教授)、中島さち子 さん(株式会社steAm 代表取締役)が登壇し、それぞれの報告についてのコメントをされました。
セッションの最初に、経済産業省 教育産業室の浅野大介 室長から「学びのSTEAM化」のためのツールとして、経済産業省でSTEAMライブラリーを開発していることが説明されました。コンテンツを公募したところ、現在までのところ69のコンテンツが集まっており、これを200まで増やしていくことを目指しているそうです。
このSTEAMライブラリーにより、子どもたちが日本の研究の粋を覗けるようになり、いま大人が何と格闘しているのかを知ることができるようになります。そこから探究が始まっていきます。
STEAMのコンテンツ制作に取り組む4事業者の報告をレポートしていきます。
株式会社COMPASSは、「水産資源の持続可能性×テクノロジー活用」をテーマに、養殖漁業におけるテクノロジーの活用を、科目や単元と教科横断的に紐付けた8コマのコンテンツを開発しています。COMPASSと言えば、AIドリル「Qubena」で知られていますが、「創業当時から「習熟」と「実践」の学習サイクルを回すことを目指してやってきていて、教科横断的な探究学習・STEAM教育を行う時間を作るために、Qubenaを使って教科学習の時間を効率化している」と木川さんは言います。
限りある水産資源の問題は、SDGsでも取り上げられています。また、グローバルでは人口が増えていますが、地域を見れば漁業の跡継ぎ問題、就労人口の減少などの問題もあります。今回、COMPASSが取り組む、養殖漁業におけるテクノロジーの活用は進んでいるものの、そのままではマニアックで興味をもてない人も多いと思うので、ストーリーに沿って牡蠣の養殖を学んでいけるようにアニメーション動画を政策しています。
授業の流れは、1.動画を視聴する(10分程度)→2.ワークシート(10分程度)→グループワークなど(20分~25分程度)という形になっています。動画を見た後で、ワークシートで問いを提示して、その問いをグループワークで掘り下げていくようになっています。動画やワークシートを活用することで、先生方の授業準備の負担を軽減できるように工夫してあるそうです。
子どもたちに学んでほしいことは、牡蠣の養殖それ自体についてだけでなく、理想とそれを取り巻く課題、そして課題を解決するための教科学習とのつながり、というフレームワークを学んでほしい、と木川さんは言います。
ベネッセ教育総合研究所は、「テクノロジーを通じた災害の問題解決」をテーマとして、高校生向けの災害×テクノロジー、全8コマのコンテンツを開発しています。
コンテンツ全体としては、1.生徒が身の周りの災害について理解する→2.災害現場で活躍するテクノロジーを知る→3.テクノロジーを活用して災害現場の問題を解決する、という形になっています。
防災については、学校で避難訓練もしていますが、興味を持てていない子どもたちが多いと思います。だからこそ、防災をSTEAMに変えることで学びを深めていきたい、と小村さんは言います。
防災にあまり興味のない生徒にも興味を持ってもらえるように、ヘビ型のロボットや、SNSの投稿による天気予測、キャンプに役立つ防災スキルなど、生徒の興味関心と防災のテーマをつなげることを重要視しています。このように興味関心を防災につなげる多様な小ネタをSTEAMライブラリーの中に搭載することで、教科横断・テーマ横断で使えるようになります。
また、災害時の生存ゲームをやってみるなどのように、「遊びの要素」を取り入れています。真面目なことを不真面目に、不真面目なことを真面目にすれば、それが探究になり、先生も生徒も一緒になって、「問いの連鎖」を作っていくことができます。
最後に、「大人がすごいと言いたいわけではなくて、大人たちはここまでやっている、悪戦苦闘している、この先にフロンティアがあるんだよ、ということを示したい」と小村さんは言います。大人だって「わかんないんだ」「ここまでしかできていません」ということを伝えて、一緒に探究していくことが重要だと思います。
ブリタニカ・ジャパン株式会社は、東京大学生産技術研究所、産総研、新エネルギー・産業技術総合開発気候(NEDO)、筑波大学附属中学校と協力して、最先端研究を通じたSTEAM探究の開発に取り組んでいます。
250年以上の歴史をもつブリタニカ・ジャパンは、多彩なコンテンツをグローバルに展開していて、世界中の教育機関でコンテンツを提供しています。
今回のSTEAM探究の取り組みでは、「最先端であることと、日本の教育現場での使いやすさを考えている」と須藤さんは言います。先生方が使いやすいように、「授業用レッスンプラン(動画を含む)」「リモートラーニングタスク(課題)」「教員用ガイド(生徒の回答例を含む)」「生徒用ガイド」を制作しています。
授業用の動画としては、例えば「火星移住」をテーマにした動画があります。火星に移住するには「毒性のある土壌」をどうにかしなくてはいけないなど、動画を見ていると多くの問題があることがわかります。火星へ移住するためにはそうした問題をどう解決すればいいのかをみんなで考えていくそうです。
他にも、火星で建築物を建てるために資材を運ぶだけで9ヶ月もかかってしまうという問題もありますが、すでにNASAでは火星で建てる建築物のコンテストが行われていることを伝えます。そうした最先端の情報を知って、自分たちはどうしようかと考えられるようになってほしい、と須藤さんは言います。
こうした問題に取り組むことは、子どもたちにとってワクワクすることです。自分たちで考えたアイデアをビジネスとして展開するにはどうすればいいのか、ということを教科横断的に学びながらディスカッションをしていき、最後に最先端の研究者にプレゼンするというふうになっています。学びは楽しくないと継続しない。だから、「ワクワク」を誘発する工夫がされているそうです。
また、今回のコンテンツは、グローバル・コミュニケーションスキル強化も目指していて、日本語と英語で提供されるそうです。グローバルに展開していて、世界中の教育機関にコンテンツを提供しているブリタニカ・ジャパンだからこそのアプローチだと思います。
NPO法人クロスフィールズは、360度・VR映像を活用した国内外の社会課題の疑似体験コンテンツを開発しています。これは、クロスフィールズがこれまで企業向けに提供してきた「共感VR」を教育分野で使っていくアプローチです。
SDGsは、現地へ行って体験してみるハイエンドのものと、カードゲームをやってみるようなローエンドのものとに分かれていて、中間のものがない、と小沼さんは言います。コロナ禍のなか、社会見学やインターン、留学など、社会の現場へ行くことが難しくなっています。そのなかでリアリティをもつためのきっかけをテクノロジーで提供していきます。
360度・VR動画を活用する目的は、社会課題に対する探究心と解像度を高めてもらうことです。動画を見ることで、当事者意識をもって社会課題を理解してもらうことができます。それと同時に、「社会は変えられるんだ」「社会はこうやって捉えられるんだ」という新しい視点を得られるようになると思う、と小沼さんは言います。
授業としては、1.タブレットで360度動画で一人称の目線で、社会課題の当事者の生活の現場を見て、生徒たちで話し合う→2.課題解決に挑む現場の起業家インタビュー動画を見る→3.ワークシートを活用する という構成になっています。現場の先生と協力しながら作っているところですが、総合的な学習の時間、探究の時間でやってもらう想定で、2コマで授業をするショートバージョンと、8コマでやるロングバージョンが制作されていて、どのように使うかを選んでもらえるようになっています。
テーマとしては、「カンボジアの農村の生活の様子」「日本における海洋ゴミ」など4~6個くらいを用意して、それぞれのテーマの動画やワークシートがSTEAMライブラリーに掲載される予定です。
小沼さんは、「共感と探究心でチェンジメーカーとしての一歩を踏み出すきっかけになってほしいと思っている」と言います。
中間報告後に、それぞれの事業者のプレゼンテーションについて登壇者全員でのディスカッションが行われました。
最初に、クロスフィールズの中間報告についてのディスカッションです。
木村先生
ワクワクする映像だった。現場レベルでも、本物に触れるのはすごく大切なこと。コロナの影響もあって、そうした機会を用意できないことも多い。そんななかでテクノロジーが活かされるという発想はとても大事。それをシェアできるのも大事。とても期待しています。一方的にコンテンツを配信するのではなく、自分ごととして、自分でどうしてVRで見ている世界に関われるかを考える機会になる。
中島さん
知ると作るの循環が生まれる。世界のいろいろな様子は、教科書で見ていてもわからないことがたくさんある。自分とは全然違う生活や歴史を背負った人と出会うと、自分も変わる。海外に行ける人は限られるので、VRの使い方としておもしろいと思った。できればそこからリアルな対話が現地の子どもたちや誰かと生み出せたらおもしろいな、と思う。そういう仕掛けだけでも始められると、知って、さらに会話することで、課題や現地での困ったことなどを知ることができると思う。世界中がつながっていける。
小沼さん
VRを作ればテクノロジーの中で完結すると思っていたが、そうではなくて、それを見て、他の生徒たちと「おもしろいね」と話し合っていくことこそが大事だと気づいた。社会課題を点でとったのではなく、現地のパートナーと一緒に作っているので、これを見たことをきっかけにして次のステップに進んでいくようにデザインしていきたい。
田村先生
ワクワクする。VRを使ったテクノロジーを使って実際に学んでいくときに、どんなふうに文理融合していくか、どんなふうにSTEAMになるか、ということは説明できますか?ターゲットとなる国の課題を扱う中で、どんなふうにテクノロジーが入ってきますか?
小沼さん
テクノロジーを使って環境課題を解決しようと思っているテーマなどもある。理数的な形をどうやってリアルな世界と接続するかなどが、テーマごとに出てくると思う。
浅野さん
エネルギーとかもそう。未電化地域と日本では、国としてのエネルギー政策の話は全然違うものになる。それが社会や理科の話とつながっていく。
小沼さん
テクノロジーを使う前提が国によって違う。タンザニアの広大な地域に電線を張り巡らすだけでは電気は届かない、ということを知ったり。これはただのテクノロジーの話ではない。
田村さん
そうして、自然科学と社会科学がつながっていく。
次に、ブリタニカ・ジャパンの中間報告についてのディスカッションです。
中島さん
テーマがどれもワクワクする。まさにSTEAMなところで、課題と未来をどう描くか。まだ定まっていないテクノロジーとサイエンスとリアルを融合して、未来を描くことができる。これを学校で使えるのはすごくいい。また、グローバルな展開で世界と繋がれるのもいい。ここからまずは出して、それが開かれたコミュニティができて、いろいろな研究者がここをハブにして海外とも繋がっていくところまで、ブリタニカさんだとできるのではないかと思っている。
須藤さん
グローバルな繋がりは意識して進めていきたい。英語のコンテンツも提供するので、海外の学校との連携や協働の研究や発表などもできるかと思う。
浅野さん
同じテーマで英語で教材を作ってもらうので、海外の大学と繋がることも可能。世界中と高大接続をすることもできるようになればいい。
田村先生
最後に最先端の研究者に向けたプレゼンテーションをして、フィードバックをもらえるとモチベーションが上がると思う。
浅野さん
ライブラリーを、単なるアーカイブではなくて、先生方が繋がる場にもなるし、研究者も参加する場にもなるような状態ができるのが理想。フィードバックループが回ってくると思う。
木村先生
STEAMライブラリーのコンテンツでいちばん大事なのは、学習者の意欲をどう惹きつけるか、その入口をいかに多く用意するか。先程のセッション1からの流れで言うと、意欲の個別最適化が大事だと思う。いろんな意欲に対応して、たくさんの入り口を用意できて、深く掘り下げて進めていけるのがブリタニカの強さ。それがテクノロジーの力でどう発展していくか、楽しみ。
次に、ベネッセ教育総合研究所の中間報告についてのディスカッションです。
田村先生
問いの連鎖、課題の連携というのは、STEAMにおいてとても重要。問いが連鎖して、それを探究することによって、また問いの質が高まっていく。問いが更新されていくということが大事だ。
小村さん
授業をやっていて、どんどん問いが増えてくる。それをどんどん追加していく。ここに出てくるのは回答ではなくて、どんどん問いがアップデートされていく。
浅野さん
災害について言うと、災害は総合科学だと思う。生存ゲームをやる話があったが、あれも学校で昔習ったことが繋がっているもの。真面目にこれを考えてもらいたい。
小村さん
災害対策のアイデアを考えてもらっていると、アイデアの質を高めるのが難しい。質を高めていくのは、テクノロジーの問題ではなく、結局は人の問題、コミュニケーションの問題になっていく。
中島さん
日本は災害が多いので、このテーマを日本から出すのは大事。同時に、災害が起こってみないとわからないところがたくさんあるので、どう当事者意識を作るか。また、問いを考えるだけでなくて、ロボットでプロトタイプを作ってみるとか、自分たちで一歩実現できるかも、というところまでアウトプットの方も踏み込むといい。発表するだけではない多様な出口を見せられると、子どもたちの発想がより豊かになる。未来は予測しきれないけど、いろいろな研究者が関わっているところなので、そのあたりは関心をもって見ている。
木村先生
「生徒と一緒に作る」という表現があった。もうひとつ言い方があるとすれば、「生徒と先生が一緒に楽しむ」、ということ。教育のステークホルダーは本来、こんなに広かった、というのが最近わかってきたと思う。保護者もだし、産業界もだし。大人が悩んでいることをさらけ出すことが大事。本気で僕らが悩んでいること、困っているをただ伝えるだけでなくて、一緒に考えてもらいたい、という思いをコンテンツに乗せることだと思う。そこから当事者意識やオーナーシップが生まれてくる。これからの未来を自分たちが作るんだ、というのを、子どもたちを大人たちが仲間として見る、という気持ちが込められているのが、このコンテンツの肝だな、と思う。教育の現場でもそうしたスタンスが大事。教える人、教わる人、という構図ではなくなっている。僕らも答えを知らないというのをいろんな文脈で、全員が当事者として考えられるようにしないといけない。彼らを頼る姿勢が大事だと思う。
最後に、COMPASSの中間報告についてのディスカッションです。
田村先生
さっきの防災やコロナは、すべての人に関心があり、関わりがあるもの。牡蠣の養殖は限定的な問題のように思われるが、「食」や「海洋」と捉えれば、日本全国に関係する問題。どこまで広がりが考えられるだろうか?
木川さん
課題から入っていく必要がある。国としての政策課題、地域としての課題、自分たちの周囲。世界が取り巻く課題に触れて進んでいくようになる。
浅野さん
今年度は養殖だが、近海漁業、沿海漁業、漁法やセンシングなどの広がりがある。水産資源管理は国際政治のホットイシューなので、その話などに広がれば、政治と技術のかけ算になる。
木村さん
それこそ、生徒たちがどんなところに興味をもったかをフィードバックをもらえればいい。フィードバックを集めて、子どもたちが世界中でワクワクするポイントを共有できればいい。
中島さん
現場からの声を集められればとてもいいと思う。広い視点はおもしろい。逆に、徹底的に牡蠣と向き合う、というのもありだと思う。せっかくリアルなところと繋がるので、五感を使うような感じで、観察したり触ったり食べたり、というのもあったり、牡蠣の様子のデータをリアルタイムで見られるとか、そういうニッチなところから牡蠣を知ることもできる。
浅野さん
牡蠣は、山林がちゃんと整備されていないといい牡蠣ができないので、そういうところまでいけば生態系全体につながっている話で、広がりがある。大きい水産資源管理は、政治と技術の交錯する、大きな話。いかにうまい牡蠣を作るという小さいところまで、伸縮自在。どこに設定するかは、子どもたちが決めること。
最後に、全体のまとめとして、今回の事業者の中間報告での取り組みをはじめ、STEAMライブラリーに収録されるテーマは、大きな話から小さな話まで伸縮自在で、子どもたちが自由に何でも学べるようにしたい、と浅野さんが言いました。そうした学びを広げたい、という思いがSTEAMライブラリーには込められているそうです。
GIGAスクールが協働のためのツールとして機能して、今回のSTEAMライブラリーで大人の最先端研究が学校にアウトリーチされていくことになります。デジタルでどんどん広がっていけば、子どもたちが当事者になれるチャンスが増えていきます。「どこに住んでいてもアウトリーチされる世界を速く作りたい」と浅野さんは言います。
ティザーサイトが公開になっているSTEAMライブラリー ( https://www.steam-library.go.jp/ )は、2021年2月末にバージョン1として完成します。ここにさまざまな動画コンテンツ、指導案が掲載されていきます。それを使って授業をしてもらう、フィードバックをくれるモニター学校・モニター先生を募集します。
※本中間報告会の模様は、下記の「未来の教室」公式YouTubeにてご覧いただけます。
執筆者:為田裕行(ためだひろゆき)
フューチャーインスティテュート株式会社 代表取締役、教育ICTリサーチ(https://blog.ict-in-education.jp)主宰。学校向けの教育コンサルテーション、教育テレビ番組や教材、サービスなどの教育監修を行っている。一般社団法人ICT CONNECT 21( https://ictconnect21.jp/ )にてEdTech推進SWGサブリーダーを務める。