「未来の教室」オンラインキャラバンの6回目となる「オンラインキャラバン×GIFU ~不登校・ギフテッド・個別最適化~」が、2020年9月22日(火)に開催されました。岐阜県の事例と2020年度の実証事業参加事業者の活動紹介を軸に、個別最適化の視点で新しい学びの形の可能性が語られました。
「未来の教室」では、学校を閉じた世界にすることなく、民間の教育産業や、大学、研究機関、産業界などとの連携を行って、教育のイノベーションを目指しています。「誰一人取り残さず、留め置かない」を実現するために、学びの個別最適化は重要な柱であり、不登校は大きな課題です。
経済産業省サービス政策課長(兼)教育産業室長の浅野大介氏は、不登校の現状を数字で示します。年間30日間以上欠席している「不登校」の子どもたちは2018年の文部科学省調査で小学生5万人、中学生11万人。さらに日本財団が2018年に行った調査によれば、「不登校」には含まれないものの「不登校傾向」を示す中学生は33万人と推計され、中学生のおよそ10人にひとりという規模になっています。不登校、不登校傾向への対応が遅れれば、すでに大きな社会課題となっている大人の「ひきこもり」人口の拡大につながる可能性があり、少子高齢化社会の致命傷となりうると浅野氏は危惧します。
「『誰一人取り残さず、留め置かない』をスローガンに終わらせることなく、本気で学校に来られない子どもたちにどう学びの機会を提供するか、どうその人生を花開かせていくかを考えなければいけません」と呼びかけました。
浅野氏は1980年代からの教育改革の流れを示し、つづいて星槎大学大学院教育学研究科客員教授で元文部科学省大臣官房審議官の寺脇研氏が、長い流れの中でこの問題を捉えます。寺脇氏は1980年代の臨時教育審議会答申には、「生涯学習」という考え方があり学校中心の考え方からの移行が議論されていたことを指摘。「学習する側からすれば、学校であるか学校でないかということは関係なく、『何が自分にとって最適の学びであるのか』という考え方は、30年以上前からあったわけです」と、今の「個別最適化」という考え方が、最近急に生まれた流行りというわけではなく、長く議論されてきた考え方とつながっていることを示しました。
ただし、当時は不登校の問題は抜け落ちていたといいます。登校拒否などという言葉で不登校は悪だという風潮があり、その後、不登校は悪ではなく不登校でも次の段階の学校に入れるようにしていこうという学びのルートができてきました。さらに、オンラインなどの手段で不登校でも学べるチャンスをさらに広げていけるようになったというのが現在のフェーズというわけです。
寺脇氏は、「学校が手段のひとつだという概念になっていかなければいけません。学校がスタンダードだという考え方をどう大きく変えられるかということがテーマなんですよね」と、個別最適化には多様な学びの形が広く受け入れられることが大切だと整理しました。
具体的に現在どのような不登校への対応が生まれているのでしょうか。岐阜県からは、全国でまだ数の少ない不登校の特例校(不登校児童生徒を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校)である岐阜市立草潤中学校(2021年4月開校予定)と、学校法人西濃学園西濃学園中学校(岐阜県揖斐郡)についての紹介などがありました。
岐阜市教育委員会教育長の早川三根夫氏は、「教育はレディメイドからオーダーメイドへ」と表現し「無理をして学校に合わせようとするのではなく、あなたに学校が合わせるもうひとつの学校があります」と市の姿勢を示します。草潤中学校では子どもと相談しながらカリキュラムを決める方針で、オンラインで学ぶという手段もありうるということです。
学校法人西濃学園学園長の北浦茂氏は、「世の中では不登校は甘い、異常などと言われることが多かったのですが、ひとりひとりと接すると決してそんなことはないんですね。それぞれの子どもの個性を大切にしなければその子の自立ということは考えられないのではないかと考えてこの学校を作りました」と、その設立の思いを語りました。山村の中にある同校では寮生活を行い、地域と深く結びつきながら学びます。
民間の取り組みとして、2020年度の実証事業に参加する複数の事業者から報告がありました。
株式会社城南進学研究社が横浜市立鴨居中学校と行っているのは、不登校等で学習支援が必要な子どもたちへの「個別学習計画」とオンライン教材による学習の取り組み。生徒ひとりひとりが自分で学びたいこと、やりたいことを自由に決めて「個別学習計画」を立て、学びへの意欲を取り戻していく様子が紹介されました。指導者の役割は知識を教えることではなく、「賞賛、共感、動機付け」という立場。与えられるのでは無く自らが組み当てる個別最適化の姿が見えます。
株式会社クラスジャパン学園は、不登校や不登校傾向の児童生徒のための学習の支援機関はあってもそこで学んだ内容が義務教育の学校の成績評価としては採用されない実情と背景を解説。17市町村と連携して、オンラインの在宅学習とその成果を学校の出席・成績に反映するためのガイドラインモデルの作成に取り組んでいることを紹介しました。
個別最適化の進め方の例と、成績評価という大きな課題への第一歩として、具体的なイメージを持てる話が共有されました。
浅野氏は、「不登校」や「ギフテッド(得意な才能を持っている)」などの線引きをした瞬間に、その内側だけの問題になってしまう傾向には注意を促します。現在個別に不登校などの子どもたちだけに対して行われている取り組みだとしても、ここから拡大して、「『分ける』という発想から、『それぞれ違うんだから』ということを前提とした融合する教育システムに育っていく期待感を持っています」と、コメントしました。
寺脇氏は、教育改革に重要なポイントは、社会の未来予測と連動させることだと指摘します。30年前の臨時教育審議会でも社会の未来予測と合わせて教育の課題が検討されたように、今、その議論が必要だと呼びかけます。
「個別最適化という流れは変わりません。一人ひとりの能力の良いところを社会で生かす、という方向性は確かです。じゃぁその社会ってどういう社会なのか?ということを並行して考える必要があります。教育の専門家が教育について議論するのと並行して、社会がどうなるのかというビジョンをいろいろな立場の人で議論して、どう連動させるかを考えなければいけません」と寺脇氏。
浅野氏は、「今の社会は大人自身が働き方改革などものすごく壮大な社会変革の中にいます。さまざまなワークスタイルを認めていこうというのがこれからの社会のイメージ。教育も今の社会構造とつながって変化していく大きなチャンスだと思います。多様なひとりひとりの個性に対応した働き方や学びをどうやって実現するのかは、まさに今直面するこれからの課題です」と、社会と教育が連動しながら一歩ずつ変化していくことの重要性を確認しました。
全体のモデレーターは認定NPO法人カタリバ代表理事、文部科学省中央教育審議会委員の今村久美氏が務め、オンライン参加者のコメントも取り上げながら進行。活発な議論が広がることを前向きにとらえ、ますます深い対話を行う必要性を確認しあい、これからの広がりにつながるイベントとなりました。
※ONGフォーラムの模様は、下記の「未来の教室」公式YouTubeにてご覧いただけます。
執筆者:狩野さやか(かのうさやか)
株式会社Studio947(https://studio947.net)のライター、デザイナー。技術書籍や記事の執筆、ウェブデザインに携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」(https://ict-toolbox.com)を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。